「イヌの仇討」こまつ座第130回公演 井上ひさし作 東憲司演出

 これまでの赤穂浪士の討ち入りは、浅野内匠頭の無念を大石蔵之介を中心とする四十七士が晴らすというストーリーが多かったのだが、この劇はその概念を全く覆すものであった。

 時代の真実は虚偽と嘘だらけ。吉良は本当に悪者か。

 吉良が浅野内匠頭を貶すことから、殿中で斬りつける事件へと発展することとなるが、劇では、吉良が語る。「朝廷の使いが来ていて、(浅野の)宴の準備が疎かで厳しく話をするしかなかった。」さらに、「斬り付けられた後にどうして刀を抜かなかったのかというと、剣の達人である私(吉良)が剣を抜いていれば、喧嘩両成敗とどちらにもお咎めが下り、お上にも、家来にも迷惑がかかる」浅野はその当時流行していた「怒り病」にかかっており、すぐにカッとする人間になってしまったいた。

 討ち入りをされた後、当主となった吉良の息子は捕らえられたが、殺されることはなかった。吉良は炭焼き小屋に側近や女中、側室と2時間身を隠す。赤穂浪士の目的は、吉良上野介の首をは狙うことだけではなかった。

 大石内蔵助は、幕府への不満を晴らすために、吉良の屋敷に討ち入りに入った。生類哀れみの御禁令のために不自由している領民がたくさんいること、浅野内匠頭を事件直後に即日切腹、さらにお家取り潰し、召し上げられた領地は幕府直轄に。長年幕府の「犬」として忠実に仕えてきた吉良宅に討ち入りに入れば、復讐にもなる。吉良にも幕府にも恥をかかせることができる。

 吉良が将軍からもらった犬やその犬専用の座布団を、炭焼き小屋までしっかり持ち込んで、大切にしていたところが印象的だった。

 劇からわかった部分だけを書いてみたが、これはあくまでも、一つの見方である。ストーリーはたいへんおもしろかった。オススメの劇である。