「個に応じた英語指導を目指して〜ユニバーサルデザインの授業づくり〜」を読んで

「個に応じた英語指導をめざして ユニバーサルデザインの授業づくり」村上加代子 くろしお出版 2021年

 初めて村上加代子先生にお会いしたのは、2011年。私が教育委員会の研修員をしている頃、研修のテーマが「特別支援教育」だったため、英語と特別支援教育をどう結びつけようか思案していたところ、村上先生の講演をお聞きして、大きく影響を受けた。「英語だけ苦手な子がいる」他の教科はとてもできるのに、英語だけ苦手な子が教えているこの中にいた。1人だけではなく、受け持つクラスには必ずと言っていいくらいいた。とても不思議に思っていたので、頭の中の霧が、講演後にスッと晴れた気がした。

 「英語の文字と音とが一致させられない」のである。音韻意識を上げてやらないと、解決できない。認知的にそのような脳の処理が可能ではないので、他の子どもと同じようなアプローチでは、英語の苦手意識を除去することはできない。

 村上先生が提案してくださった方法、音韻意識(音韻認識)を上げるために、音素トレーニングをしたり、文字の書き方やノートを工夫することで、子どもの困り感を少しでも取り除いてあげられたら、英語に苦手意識を下げることができる。

 私が指導主事になってからも、夏休みの研修会に招聘して、たくさんのことを小中学校の先生に教えていただいた。

 五感で英語を学習することで、良い方向に向かうことがある。 

 「触覚」を加えて段ボールや紙やすりのようなざらざらした面を指でなぞるだけで、鉛筆とはまた違う指先の感覚となり、文字の動きを覚えやすいと感じる子どもがいるかもしれません。鉛筆の代わりに筆を使うのもいいでしょう。「ゆび筆」と言う指にはめて使う筆があります。これを使って「水半紙」に水でアルファベットの文字形を書く活動などは、水があっという間に乾いて何度でも書けるだけでなく、腕も動かすため、不器用さがある子どもでも気持ちよく楽しく行えます。

 ここでも、動機づけについて提案されている。デシ&ライアンの「自己決定理論」からいつも考えさせられるのだが、村上先生はこう記述する。

 子どもに必要なものを自分で選ばせることも大切です(中略)学ぶ手段を「選ぶ」ことは、自主的な学びの態度の育成にもとても大切です。教員が「こうしなさい」と指示するのではなく、「こういうやり方だったら自分はできる」と思える手段を身に付けさせることが自信につながります。うまくいかなかったら、また違うやり方をすればいいのです。

 小学校では、ローマ字を訓令式で学ぶ。津はTsuではなく、Tuになってしまう。これは「ヘボン式」でローマ字を学ぶ中学校では、少し困ることになる。

 ローマ字を小学校で訓令式で学ぶことは、「日本語の音の仕組みを理解する」という観点から見ると、「英語教育に悪影響」という議論はふさわしくないでしょう。

2020年1月1日から、公文書などで日本人の名前をローマ字で書く際、「姓→名」の順とすることを決めました。

 五感でアルファベットを学ぶ方法がいくつか紹介されていた。

 活動例③ 背中に書いた文字を当てる 活動例④ bとdを指で作ろう

 背中に書かれた文字を当てることは、頭の中にアルファベットの概念ができるのでとても良い。また、bとd、pとqはよく間違えるので、初学者のうちにしっかり概念形成をしておくことが大切だ。

Sasoon Primaryフォントを使うが英語圏ではよく使われている。

 アルファベットを書くことに苦労している子どもには、初学者であればあるほど、書字練習のノートは4線にこだわらなくてもいいでしょう。文字の形にまだ慣れていないうちから4線を用いると、複数の情報処理をしなくてはならなくなり、誤りが増えます、アルファベット書字では、ベースラインが基準となります。英語ノートの奥はベースラインは赤字や太線ですね。アルファベット文字の書字練習では、文字は1本の線(ベースライン)の上に書くことから始めると、失敗や間違いがありません。視覚的な情報を減らし、書くときの動きに集中させましょう。文字の形がベースライン状にスムーズに書けるようになれば、2本線に挑戦しましょう。2線の練習では、大文字と小文字は別々に練習します。

 左利きの子どもへの書字指導 紙が引っかかるなど、ストレスが大きい。”left-handed handwriting”や”left-handed learner”などの用語で検索して、処方を学ぶ。ノートの角度は35度くらい。左ではなく右にお手本を書くこと。

 アルファベットの音指導 (指を3本立てて、1本ずつ指しながら、ドゥ、オ、グ。もう一度言うよ(1本ごとに指しながら)、ドゥ、オ、グ。さあ、最初の音はなんだったかな」のように、視覚的手がかりも与えながら、「初めの音」を全員がわかるように指導する。

 アルファベット短母音の指導 i e a o uの順に5つのたん母音を書き、順番に発音と動作を説明しながら一緒に発音する。i(口をパカッと開けて)、e(口をしっかり横に開いて笑顔で)、a(eの口をキープしたまま顎を下げて)、o(たてに丸く口を開いて)、u(喉の奥から短く低く)

 オンセットとライム オンセットは「音節の母音より前の子音の部分」、ライムは「音節の母音とその後ろの部分」fishであれば、fがオンセット、ishがライム。

 ワーキングメモリとは「情報を一時的に記憶・処理する能力」と説明されています。短期記憶と違う点は、記憶だけでなく処理も含むことです。頭の中のワーキングメモリというメモ帳に情報を書き込み、それが重要な情報だと判断した場合は長期記憶に移し、そうでないと判断すれば消されます。そしてこのメモ帳の特徴として、ワーキングメモリの容量には制限があることが指摘されています。ワーキングメモリの弱い子どもたちのためには、3文字単位以上の読み書き練習では、操作する情報量を減らす目的でオンセット-ライム単位を用いるといいでしょう。単音節の単語を読ませる際に、「母音の前」と「母音から後ろ」の2つの音声のまとまり(チャンク)に分けます。例えば、”camp”という単語は4つの音素([k][ae][m][p])でできていますが、オンセット・ライム単位ではc-amp([k]-[aemp])のように2つのチャンクになります。

 読めるごと暗記する語 tricky wordsと呼ばれるアルファベットを繋ぐだけでは読めない単語が多く存在しています。One, the, he, are, all, youなど。視覚的暗記が必要な単語を、「毎週○語」のように目標を立てて、暗記に取り組みます。

 特別支援教育の原点に立ち返って、

「特別支援教育の視点」を持つとは、「どう教えるか」の前に「なぜつまずくのか」という疑問を持ち、その答えを生徒と共に探す姿勢ではないかと思っています。

 我らが赤木先生の著書の引用がある。

 「できることだけを追求することは子供を追い詰めることにつながる」こともあるため、「できる」「できない」以外にも価値があること、「考えることの楽しさを伝える」こと、「違いを尊重し、つながりを目指す授業を展開すること」など、教員が「自分たちの子ども観・教育感を自覚し問い直すこと」(赤木、2017)を大切にするように呼びかけています。

 バリアフリーとは、生活の中で不便を感じること、さまざまな活動をするときに障壁になっているバリアをなくす(フリーにする)こと」と定義されています。ユニバーサルデザインとは「予め、障がいの有無、年齢、性別、人種などにかかわらず、多様な人が利用しやすいように都市や生活環境をデザインする考え方」です。その場合、段差をなくしてスロープをつけることはバリアフリーになるでしょう。一方、学校の設計段階からスロープをつけたアプローチにし、エレベーターも設置しておけば、車椅子の子どもだけでなく、足の怪我やなんらかの必要性がある子どもも移動がしやすくなると考えるのがユニバーサルデザインです。

 平等・公平・公正さのちがい(Equality, Equity, Justice)

 平等・公平・公正さのちがい(Equality, Equity, Justice)
 平等・公平・公正さのちがい(Equality, Equity, Justice)

いろんなサイトに 平等・公平・公正さのちがい(Equality, Equity, Justice)が出ている。いろんなサイトに拡散しすぎて、オリジナルはどこにあるのかわからないので、出典先を明示できない。Justiceの部分が「ユニバーサルデザイン」を意識して、「バリアフリー」として計画されていることだと思う。

DSM-5から学習障害は限局性学習障がい(SLD:Specific Learning Disablility)と呼ばれるようになりました。なかなか周囲に理解されにくく、「怠けている」「やる気がない」と誤解されがち。

セグメンティングについて 音素の操作、特にセグメンティングはネイティブの子ども達にとっても大変難しく、小学校入学時の段階でも読み書きに十分な音韻意識が自然に獲得できているのは半数に満たないと言えます。音韻意識の調査結果では、単語を音素の単位に分けるスキルの方がつなぐスキルよりも難易度が高いことが明らかにされている。

文字の名前は”letter names”、文字の音は”letter sounds”のように区別して表現されることが多いようです。

音声を文字に変換する処理はエンコーディング(encoding)、(文字を音声に変換する処理はデコーディング(decoding))と呼ばれる。

カタカナをふらせる指導の弊害は、「日本語の音節で英語の音声を認識する癖をより強固に定着させてしまうことだと考えています。音節のリズムが違う、strongは英語では1音節、日本語ではなんと5音節。この違いがカタカナと英語での発音の違い。

 国語のつまずきから予想した英語のつまずき対応例 文字を読むこと(音を思い出すこと)、書くことに時間がかかる → 「文字を思い出すのが大変なんだね」という気持ちに寄り添い、アルファベットシートを見て書くことを許可したり、パソコンやタブレット端末の使用スキルを身につけさせる、スピーキング活動などで英語の楽しさを感じさせながら音声的な語彙量を増やしていく 文字が汚く、文字のバランスが悪い → 「もっときれいに書きなさい」などとは絶対に言わないようにし、手等での動き方などを具体的に示し、徐々に「読める程度」の文字をめざす、書字練習より学習内容の理解を優先し、困難の程度により合理的配慮としてパソコン入力を認める

 

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