英語教育2025年10月号を読んで

『英語教育』2025年10月号 大修館書店 The English Teachers’ Magazine October 2025(Vol.74 No.8)

テーマ:10/13は“失敗の日”——失敗を生かして授業を改善する

今月号の拡大特集は「10月13日=失敗の日」。
“失敗を材料に授業を良くする”という視点が全体を貫いていて、現場感のあるヒントが満載でした。とくに印象に残った記事を、私の授業実践の視点でメモしておきます。

1 ビリギャル本人・小林さやかさん「失敗の受け止め方」

キーワード:学習は“複利”/一夜漬けより“10分×何度も”

学習は“複利の板波”。最初の成果は小さくても、続ければ何十倍にも広がる。だから“一夜漬け”ではなく、“少しずつ、何度も”が正解。

スピーチや表現活動の指導でも、私が常に言っている「10分×反復」と完全に一致。
“短時間×高頻度”が、発話の滑らかさ・語彙の想起・自信を底上げします。

2 奥住 桂(埼玉大学 准教授)

すべての教員PCに“公費で”適切な英字フォントを

“手書きに近い読みやすい英字フォントを、先生が個人負担ではなく公費で導入すべき”という提案。
Comic Sansで代用すると Y / l / 1 などの形が学習用表記として微妙にズレる問題がある、という指摘に深く同意。記事では例としてサスン(Sassoon)系や、私自身も使用している**モリサワ「UDデジタル教科書体」**が挙がっていました。

3 三仙 信也(福井県立藤島高校)

「ディベート指導」の4つの誤解をほぐす

    1.    試合まで辿り着けるか? → 試合の可否がゴールではない
    2.    原稿準備が難しい → 全文原稿ではなく“キーワード”で話す練習
    3.    イベント化で進度が不安 → “必要な内容を学んだ後の短尺実践”で十分
    4.    文献調査の負担 → 検索時間は“活動設計”で区切る(浪費しない)

「ペア」「トライアングル(3人)」など小さな単位にディベートのエッセンスを埋め込むのが肝。
“話すための原稿”は箇条キーワード+マッピング/ラベリングで即興性と聞きやすさが両立します。

4 佐藤 誠司((有)佐藤教育研究所)

「大事なことを先に言う」——作文とスピーキングの共通原則

Did you do anything last Sunday?
Yes, I spent half of the day collecting trash on the beach in a volunteer group.

“海岸でボランティアが集まって…”という状況説明から始めず、**要点(半日かけて清掃)**を先頭に。
書く・話すの順序は固定ではなく、双方向にトレーニングするのが理想。
豆知識:ハッピーセット=Happy Meal。

5 近藤 公哉(埼玉県立坂戸西高校)

生成AIも活用:描写課題で“書く力”と意欲を底上げ

描写課題は英検面接の準備だけでなく、ライティングの有効な足場。
ここで紹介されていた Sadiyah(2011) の研究が非常に示唆に富むものでした。

◆Sadiyah(2011)の研究概要(詳細)

インドネシアの公立高校に通う英語学習者28名を対象に、描写課題(Descriptive Writing Task)が英作文能力と学習動機に与える影響を検証した実践研究です。
    •    目的:
 絵やイラストを基に英作文を書く活動が、学習者の語彙力・文法力・内容展開・学習意欲にどのような変化をもたらすかを調べる。
    •    方法:
 対象生徒を「描写課題実施群」と「通常作文群」に分け、約6週間にわたって授業実践を実施。前後テストとアンケート調査を行い、文章量・語彙の多様性・文構造・感情面の変化を比較。
    •    結果:
 描写課題群では以下の変化が見られました。
 1. 1回あたりの作文語数が平均30%増加。
 2. 形容詞・副詞の使用率が上昇し、文がより具体的・生き生きとした描写に。
 3. 82%の生徒が「絵があると書きやすい」と回答。
 4. “英語を書くことは楽しい”と感じる学習者が増加。
    •    考察:
 Sadiyahは、イラストを基にした作文活動は、学習者の想像力を刺激し、言語使用の幅を広げるとともに、心理的負担を軽減して“自分の考えを英語で表現する第一歩”になると結論づけています。
 また、形容詞・動詞のバリエーションが増えることで、文法学習と創造的表現の橋渡しにもなると指摘しています。

◆現場での応用アイデア
    1.    1枚絵(または生成AIで作成)を提示
    2.    形容詞5語→文3つ→ミニ段落の順で拡張
    3.    30秒口頭要約→60秒で段落清書

絵を活用することで、生徒が自分の表現を視覚的にイメージしやすくなり、結果として「英語で書けた!」という成功体験を増やせます。

まとめ:失敗は“設計”で学びに変わる
    •    小さく、何度も(複利の発想)
    •    環境=見やすいフォントで学びを後押し
    •    勝敗より過程(小単位でディベートの核を回す)
    •    要点先行で伝わる英語
    •    絵の力+AIで“書けた”の成功体験を増やす

今号は、「失敗を恐れない設計」と「学びやすい環境整備」が、結局は生徒のエンゲージメントを押し上げるという示唆に満ちていました。

「反応しない練習」あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」

「反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」」草薙龍瞬著 KADOKAWA

『反応しない練習』―仏陀の教えが現代に生きる理由

最近読んだ本、『反応しない練習』(草薙龍瞬著/KADOKAWA)は、久々に心に深く響いた一冊でした。
著者の草薙龍瞬さんは、ただの僧侶ではありません。中学校を中退後、自らの努力で大検(大学入学資格検定)を経て東京大学法学部に進学。その後、インドやタイの大学で仏教を学び、現在は特定の宗派にとらわれず、仏教を現代に生かす活動を続けているという異色の経歴の持ち主です。

反応しないという生き方

本書のテーマはタイトルの通り、「反応しない」。
怒り・嫉妬・不安・妄想――日常の苦しみの多くは、実は外の出来事そのものではなく、自分の心の反応によって生まれているというのです。

著者は仏陀の教えに基づき、悩みを解く4つの手順を紹介しています。
    1.    生きることには苦しみが伴う
    2.    苦しみには原因がある
    3.    苦しみは取り除くことができる
    4.    その方法がある

この「苦しみの原因」にあたるのが、無駄な反応。
「認められたい」「注目されたい」「愛されたい」といった承認欲が、怒りや不満、嫉妬といった感情を生み出しているといいます。

心を静める3つの方法

著者は、心の状態を整えるための3つの実践を挙げています。
    1.    言葉で確認する – 今の自分の感情を言葉にして客観視する。
    2.    感覚を意識する – 呼吸や体の感覚に意識を向け、現実に戻る。
    3.    分類する – 感情を「貪欲」「怒り」「妄想」の三毒に分けて見つめる。

このプロセスを繰り返すことで、心が穏やかになり、反応に支配されなくなるといいます。

「判断しない」理解がもたらす自由

印象的だったのは、「正しい理解とは、正しいと判断しない理解である」という言葉。
人は「自分が正しい」と思うとき、そこに慢心や承認欲が隠れている。
それを手放し、「私は私、人は人」と境界線を引くことで、ようやく心は自由になる――この考え方にはハッとさせられました。

妄想から離れる練習

本書の中では、「妄想をリセットする方法」も紹介されています。
たとえば嫌な記憶や不安が頭に浮かんだとき、「これは記憶に過ぎない」「これは妄想だ」と心の中でラベリングする。
その瞬間、自分と感情の距離ができ、苦しみから一歩抜け出せるのです。

最後に:静かな強さを持つということ

「反応しないことが最高の勝利である」――この一文が心に残りました。
相手に勝つことではなく、相手に反応せずに自分の心を保つこと。
まさに現代社会の中で私たちが最も必要としている力ではないでしょうか。

「怒りを作り出すのは相手ではなく、自分の中の反応である。」
その気づきこそが、仏教的な“合理的な作戦”なのだと、静かに納得させられました。

草薙龍瞬さんの言葉は、決して説教臭くなく、むしろ合理的で現代的。
仕事や人間関係で疲れたとき、自分の心を整えるための一冊として、そっと本棚に置いておきたい本です。