「グレイスレス」を読んで

グレイスレス 鈴木涼美 著 文藝春秋 2023年1月14日第1刷

高橋源一郎の「飛ぶ教室」で紹介されて、ご本人の鈴木涼美さんも後半のインタビューに出ていたので、非常に興味を持って読んだ。

鈴木涼美さんは慶應義塾大学在学中にアダルト作品に出演経験がある。キャバクラなどでも働きながら、東京大学の大学院で修士を取ったりもしている。この人の生き方や考え方はどうなっているのだろうと、相当気になったりしていた。

この作品の主人公は、アダルトの撮影現場で働くメイク。ご本人の実体験からか非常に詳細に生々しく現場の様子が描かれている。女優や男優の仕草がとても細やかに描かれており、新人女優の苦悩なども描かれている。

主人公はその反面、私生活では都心から離れた古い一軒家に住んでおり、そこでの祖母との生活がとてもゆっくり時間をかけて過ごしているように描かれている。年老いてもアクティブに走り回る祖母に憧れを感じながらも、日々の仕事に忙殺されて、生きたい方向へもなかなか行けずにもどかしい思いをしている。

両親は外国へ行ったまま帰ってこない。帰ってきても主人公を可愛がるそぶりはするが、自分のことで精一杯である。

一生懸命自分を自分の生きたい方向へ向けようと苦悩する姿がとても胸を打たれた。

私は今自分が本当にしたいことをしているのか。みんなのために良かれと思ってこだわってやっても、みんなは楽がしたいようだ。若者たちはまだ20年も、30年も働かなければならないのに、自分を高めようとする気持ちが薄すぎる。一つのことにこだわって頑張り続ければ、人間国宝のように技を極めた職業人なれると思う。そうすれば、仕事は趣味を超越したものにもなるし、楽しくて仕方がなくなると思うのだが。だから、こちらもこだわってたくさんのことを教えたいと思うのだが、なかなか靡いてくれないと感じるのは、私のわがままでエゴなのかもしれない。自分の力を高めるだけでなく周りの人の力も高めていきたいということが、私が本当にしたいことである。だから、それができないのなら、もう辞めて、違う道を探るというのも一つの「手」かもしれいない。

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