英語教育2023年5月号を読んで

英語教育2023年5月号 大修館書店 May 2023 Vol.72 No.2

第1特集 新学期の指導に裏付けを 言語習得なぜなに相談室 第2特集 ジャンルに応じた読み方を テキスト別読解指導

第二言語習得と英語教育ー今なにがどこまでわかっているのか? 和泉伸一(上智大学教授)

意味と文脈のある良質のインプットが多くなってきている。だが、文法に関する例文などは、構造を示すだけの無味乾燥な文の羅列となっている場合がまだ多いようである。そのため、授業で例文を提示する際は、教師がインプットに「命」(意味や文脈)を吹き込んであげる必要があるだろう。教科書本文でも、習得に役立てるためには、そこに書かれている内容やメッセージについて生徒と一緒に考えることが必要である。意味あってこその言葉である。

支援(scaffolding)とは生徒主導の活動で教師が与えるさまざまな援助のことを指す。

テストで言語習得を支援しよう 鈴木祐一(神奈川大学准教授)

音読テストについて

単語や表現を穴埋めにしたプリントを使って音読テストを行う。このような穴埋め音読は、本文にある表現を定着させるための指導にも使われますが、意味を考えずに音読するいわゆる「カラ読み」を防ぐことができる。音読は生徒にとって負荷の高い活動であるので、意味を考える余裕はなく、文字を音声化するだけのカラ読みになりがちである。音読プリントで、強調して読む単語・表現を穴埋めにしてみるのもいい。

発音指導のゴールは、英語母語話者の発音に近づくことよりも、聞き取りやすさを表す明瞭性を高めること。単語や文のどこが強調されるのかというプロソディーを教えること。

外国語学習におけるワーキングメモリのはたらきとは 林裕子(佐賀大学准教授)

ワーキングメモリ(作業記憶)は、課題を遂行するために情報を一時的に保持しながら、並行してその情報を処理する機能を果たす、目標思考型の記憶システムである。この「並行処理(保持・処理)」の機能が情報の保持のみを司どる短期記憶や長期記憶とは異なる点である。例えば、金額を暗算してお釣りを渡す。文章理解のために読んだ内容と既存の知識を絶えず照らし合わせるなど、ワーキングメモリは日常生活のさまざま行動場面で必要な高次認知を支える認知資源である。

タスク・ベースの言語指導にかかわる疑問に答える 田村祐(関西大学准教授)

意味中心の活動を中心としながら、どれだけ学習者の注意を形式に向けることができるか、というFocus on Formの考え方である。つまり、学習者が活動やタスクに取り組む際に、意味理解・意味伝達のために言語を用いていれば、指導のターゲットとなる文法は事前に決めておいても、活動の中で頻繁に観察された誤りや用言などを事後的に取り上げても良い。

教科書に載っている活動をもとにタスクを作る際には、「意味中心であること」、「ギャップがあること」、「学習者が主として自身の言語的・非言語的リソースに頼ること」、「明確に定義されたコミュニケーションの成果があること」

テキストタイプに応じた中学生への読解指導 前田宏美(立川国際中等教育学校教諭)

チャートやマップといったグラフィック・オーガナイザーはテキストタイプを図式化していることが多いので、その特性を利用して、生徒に読んだ内容を再構築させることで、主体的な読みを促進させることができる。

家庭学習での自己調整学習により英語能力の基礎を育む 宮迫靖静(福岡教育大学教授)

悩みの種になっている家庭学習において、リテリング・音読・シャドーイング等を行えば、学習者はコミュニケーション能力の基礎を身につけながら自己調整力を開発できる可能性がある。

家庭学習では、模倣段階から自己管理段階に移行できるように練習していきます。モニタリングや活動の記録をし、自己査察に活かします活動記録は教師に定期的に提出させ、フィードバックを与えると家庭学習が継続しやすいでしょう。

自己評価においては、ICTが活用できますが、特に音読に関しては、音読アプリの評価ソフトウェアが充実している。テキストの読み上げ機能に始まり、音読の採点をしてくれるものまであります。こうなると、教師の役割は、学習者の動機付けを保持・継続させることが中心になるでしょう。

「グレイスレス」を読んで

グレイスレス 鈴木涼美 著 文藝春秋 2023年1月14日第1刷

高橋源一郎の「飛ぶ教室」で紹介されて、ご本人の鈴木涼美さんも後半のインタビューに出ていたので、非常に興味を持って読んだ。

鈴木涼美さんは慶應義塾大学在学中にアダルト作品に出演経験がある。キャバクラなどでも働きながら、東京大学の大学院で修士を取ったりもしている。この人の生き方や考え方はどうなっているのだろうと、相当気になったりしていた。

この作品の主人公は、アダルトの撮影現場で働くメイク。ご本人の実体験からか非常に詳細に生々しく現場の様子が描かれている。女優や男優の仕草がとても細やかに描かれており、新人女優の苦悩なども描かれている。

主人公はその反面、私生活では都心から離れた古い一軒家に住んでおり、そこでの祖母との生活がとてもゆっくり時間をかけて過ごしているように描かれている。年老いてもアクティブに走り回る祖母に憧れを感じながらも、日々の仕事に忙殺されて、生きたい方向へもなかなか行けずにもどかしい思いをしている。

両親は外国へ行ったまま帰ってこない。帰ってきても主人公を可愛がるそぶりはするが、自分のことで精一杯である。

一生懸命自分を自分の生きたい方向へ向けようと苦悩する姿がとても胸を打たれた。

私は今自分が本当にしたいことをしているのか。みんなのために良かれと思ってこだわってやっても、みんなは楽がしたいようだ。若者たちはまだ20年も、30年も働かなければならないのに、自分を高めようとする気持ちが薄すぎる。一つのことにこだわって頑張り続ければ、人間国宝のように技を極めた職業人なれると思う。そうすれば、仕事は趣味を超越したものにもなるし、楽しくて仕方がなくなると思うのだが。だから、こちらもこだわってたくさんのことを教えたいと思うのだが、なかなか靡いてくれないと感じるのは、私のわがままでエゴなのかもしれない。自分の力を高めるだけでなく周りの人の力も高めていきたいということが、私が本当にしたいことである。だから、それができないのなら、もう辞めて、違う道を探るというのも一つの「手」かもしれいない。

英文学者がつぶやく「英語と英国文化をめぐる無駄話」

英文学者がつぶやく「英語と英国文化をめぐる無駄話」安藤聡 平凡社

定期的に会って(と言っても3ヶ月に1回くらい)情報交換をしている英語の先生(現在は教育委員会にお勤め)に、いただいた本。とてもおもしろくて、それでもサッと読まないで、じっくり考えながらメモしながら読んだ。

↓は明治学院大学の学生の書いた書評(西宮希十花さん(英文4年)、川路楓花(英文4年)さん)

書評【 英文学者がつぶやく 英語と英国文化をめぐる“無駄話”】

英国文化を豆知識で学ぶ

本書は、英文学者である筆者が実際に研究をして得た、ネットで調べても知り得ない英国の豆知識が多く書かれていることがポイントである。

第1章の内容は、英単語について書かれている。次に第2章では、英国ならではの発音、方言について書かれている。

ここまで読むと、汎用性の高い英語の知識というより、イギリス英語という言語を学んでいる感覚になる。と言っても、語学書のような内容ではなく、知っていたら得をする知識である。しかしそれが英国を面白いと思うきっかけとなり、もっと知りたいと思わされるのである。

第3章で英国の土地について、文学作品を取り入れながら英国風景について綴られている。

最終章では、英国文化について書かれている。

ここまで読んだら、もうあなたは英国の虜になっているだろう。何も知識がない状態でも分かるような平易な言葉で書かれているので、英語だけでなく、英国の風景、英国文化についても容易に学ぶことができる。

この本は英国に興味がない人から興味のある人まで万人が楽しめる本であると言える。英国について学ぶのに1歩踏み出す勇気がない人は読むべきだと思う。1度読み始めたら、いつの間にか1冊読み終え、英国の世界に引き込まれているはずである。そしてその頃には、英国へ旅したくなっているだろう。

ここからは、私が気づいたところ、メモしたいところについて

英国、特にイングランドの地名は容易に解読できる。オクスフォードは「牛の浅瀬」、テムズ川の水深が、牛でも歩いて渡れるほどに浅くなっている地域。ケインブリッジなどの◯◯ブリッジは「キャム川に橋がかかっている場所」。マンチェスター、ウインチェスターなど、◯◯チェスターは、城塞を意味するラテン語から来ている。カンタベリーなど、〇〇ベリーは、アングロサクソン語で「城塞」を意味する。ポーツマスなど、◯◯マスは、「mouth」で「河口」を意味する。ウィンブルドンなど、〇〇ドンの「ドン」は「丘陵」を意味する。これらの街はみんな丘陵地帯に位置する。ノッティンガムなど、語尾に「ハム(アム)」が付く場合、homeの古い形で、villageより小さい村を表した。