
「カラフルな世界で」〜自分らしく生きるということ〜
ファイナルイヤーという節目に、私はひとつの決意をしました。道徳の授業を公開すること。それは、市内の公開授業という形で行われ、校内の先生方はもちろん、初任の年にご指導いただいた大先輩まで、たくさんの方に見ていただける機会となりました。
どの教材を扱うか、自分では決めかねていたところ、道徳担当の先生が「カラフルな世界で」を提案してくれました。井出上漠さんの実話をもとにした教材で、生徒たちにも親しみやすく、まさに「自分らしく生きる」というテーマにぴったりの内容でした。内容項目は、A-(3)「向上心、個性の伸長」。自分の中にある“違い”をどう受け入れ、どう発信していくか。それは思春期まっただ中の生徒たちにとって、とても大切な問いです。
授業の冒頭、「自分らしく生きるって、どんな時?」と問いかけてみました。返ってきたのは、部活動で全力を出すこと、趣味を楽しむこと…どれも素直な答えでしたが、まだどこか“表面”をなぞっているようにも感じました。
次に、私は教科書の本文を、心を込めて朗読しました。漠さんの、心に秘めた葛藤と勇気が、静かに教室に流れていきます。生徒たちには「主人公で残念だと思うところ」「素敵だと思うところ」に線を引かせました。
今回、私はあえて、これまでの定番の授業構成を変えてみました。本文の“人間理解”の部分だけをじっくりと掘り下げ、「漠さんがお母さんに悩みを打ち明ける場面」に焦点をあてました。あの一言——「わたし、女の子として生きていきたい」——には、どれほどの勇気が詰まっていたことでしょう。その場面の挿絵が教科書にはなかったため、私はAIに依頼して、静かに寄り添う母と漠さんの姿を描いてもらいました。自分らしく生きるということの象徴的な場面です。(↓参照)
そして、授業は思いがけない方向へと深まっていきました。
「自己を見つめる」場面では、生徒たちが次々に自分の話をしてくれたのです。
「部活動で悩んだこと」「お母さんとの関係」——
どれも、それぞれの“カラフルな世界”がそこにありました。
授業の締めくくりに私が話をしようとしたその時、ある生徒が手を挙げました。
「どうしても、今言いたいことがあります」と。
彼はこう語り出しました。
「1・2年生のときの自分は、自分らしくなんて全然いられなかった。でも、3年生になって学級委員やリーダーをやらせてもらって、ようやく“自分らしく”生きていいんだって思えるようになったんです。そんな自分を信じてくれた先生方に、ありがとうを伝えたかった。」
その瞬間、教室は静まりかえり、空気が一段と澄み渡ったように感じました。涙をこらえるのが精一杯でした。
授業後、助言者としていらしていた河合先生から、こんなお言葉をいただきました。
「いい授業でした。ここまで生徒理解ができている先生は、なかなかいません。私はこれまで、三重県一の先生だと思っていたけれど、今日、岐阜県を含めても、あなたがいちばんの先生だと思いましたよ。」
それは身に余るほどの言葉でしたが、何よりも嬉しかったのは、生徒たちが「自分らしく生きること」について、本気で向き合ってくれたこと。そして、自分の経験や思いを、言葉にして誰かに伝えようとしてくれたことです。
「カラフルな世界で」——それは、他人と違っていてもいい、ありのままの自分を認め、そして誰かとつながる勇気をくれる物語でした。
私たちの教室もまた、同じようにカラフルで、そしてあたたかい世界であってほしい。

最初、こんな画像になったが、何度かAIとやり取りしているうちに、↓のような絵にしてくれました。たぶん、その時のことを考えると、こうなるのでは無いかと思い、その絵を使うことにしました。

どことなく、自分の少年時代みたいな顔になっていて、親近感を覚えました。
第3学年A組 道徳科学習指導案
日時 令和7年5月15日(木)
指導者 教諭 森 雅也
1.主題名「自分らしく生きる」(A-(3)向上心、個性の伸長)
2.ねらいと教材
(1)ねらい
自分の好きなことは自分の独自性であり、かけがえのない自分を伸ばすことで人生が輝いていくことの自覚をすることで、自分らしい充実した生き方を追求しようとする態度を育てる。
(2)教材
教材「カラフルな世界で」:出典「あすを生きる」3年(日本文教出版)
(3)主題設定の理由
① 指導内容について
人は、一人ひとりが他者とは異なる個性、独自性をもっている。これらには「性の在り方に対する認識」も含まれており、それは個々人の人格に密接に結び付いているものである。性に関わる事柄も含めかけがえのない自分を肯定的に捉えることで、お互いの個性や人格を尊重しながら、自分らしい充実した生き方が追求できるのである。
② 教材について
主人公・井手上漠さんは、男女の区別が増える小学5年生の頃から、自分の好きなことを封印し、モノトーンの世界で生きることを選んだ。しかし、母はその悩みに気づき、話を聞き、「漠は漠のままでいいんだよ。」と受け入れてくれた。井手上さんの「自分らしく生きよう」という意思と選択、そして応援してくれる人の存在を押さえながら、生徒に自分自身のこれからの生き方について考えさせたい。
③ 生徒について
中学3年生は、自分らしい生き方に悩みながらも、卒業後の進路を考えなければならない時期である。これまでの経験から、他者との関わりの中で自分らしさに気づけた生徒もいるだろう。多様性を理解し視野を広げ、尊重し合うことで、自分らしい生き方に対する考えをさらに深めさせたい。
教材に関しては、多感な時期であるため、テーマによっては興味を持つきっかけが偏った受け止め方に繋がる可能性も考えられる。また、自身の性的指向について悩み始めている生徒もいることを踏まえ、保健体育の授業や、総合的な学習の時間に実施した助産師による講演などの内容とも連携しながら、適切な考え方や感じ方を育む指導に努めたい。
3.学習指導過程