「裏庭での出来事」を指導して

パキスタン赴任後の道徳授業③

「裏庭での出来事」― 自分に嘘をつかない勇気 ―

イスラマバード日本人学校に赴任してから、中学1年生との道徳の授業が続いています。

生徒は男子1名、女子1名。

人数は少ないですが、その分、一人一人の考えや価値観がよく見えます。

そして今回もまた、生徒たちの心の動きがよく見える授業になりました。

最近、「神回中の神回」が続いていますが、今回もそんな授業でした。

◆ 「自分に嘘をつかずに生きられるか」

授業の導入では、こう問いかけました。

「自分に嘘をつかずに生きることはできますか。」

難しい問いです。

人は誰でも、本当はこうした方がいいと分かっていながら、周りの目や人間関係を気にして行動できないことがあります。

二人も少し考えながら、

「できると思う。」

「でも難しい時もある。」

と答えていました。

その答えが、今回の教材につながっていきます。

◆ 「裏庭での出来事」

今回扱った教材は、多くの道徳教科書に掲載されている名作教材

「裏庭での出来事」

です。

主人公は健(けん)。

友人の大輔、雄一と一緒に遊んでいるとき、学校の裏庭でガラスを割ってしまいます。

本当は先生に報告しなければならない。

しかし、大輔は

「黙っていれば分からない。」

と言います。

健は迷いながらも、その場では何も言えません。

心の中では「言わなければ」と思いながらも、大輔の言葉に流されてしまいます。

しかし最後には、自分の良心に従い、職員室へ向かい、本当のことを話そうと決意するのです。

◆ 残念なところ、素敵なところ

今回も本文を読む前に、

  • 健の残念だなと思うところに線を引く
  • 健の素敵だなと思うところに波線を引く

という課題を出しました。

すると面白いことに、

一人は

「残念なところはありません。」

と答えました。

もう一人は、

「ガラスを割ったことじゃなくて、先生に言いに行けなかったところ。」

と答えました。

なるほどと思いました。

問題は失敗したことではなく、

正しいと分かっていることを行動に移せなかったこと。

そこに注目したのです。

◆ 健はなぜ言えなかったのか

最初の発問は、

「先生に言わなければならないと分かっているのに、言えなかった健の気持ちはどうだったのだろう。」

でした。

すると二人とも、

大輔との関係に注目しました。

「大輔がちょっと支配的だった。」

「雄一だけが大輔に意見を言えていた。」

「健は大輔が怖かったんじゃないかな。」

そんな意見が出ました。

さらに、

「本当は言いたかったと思う。」

「でも面倒なことになるのが嫌だった。」

とも話していました。

正しいことをするのは簡単ではありません。

特に友達との関係があるときはなおさらです。

二人とも、そのことをよく理解しているようでした。

◆ なぜ職員室へ向かったのか

そして授業の中心発問。

健が最後に職員室へ向かう場面です。

私は尋ねました。

「大輔のことが気になるのに、職員室へ行こうと決めた健の気持ちはどうだったのだろう。」

すると二人とも、ほぼ同じことを言いました。

「もう言いなりになるのをやめたかった。」

「ここでけじめをつけたかった。」

「一からやり直したかった。」

私は思わず感心しました。

教科書的な答えではありません。

自分たちなりに健の心を考えた答えです。

そして、

「大輔との関係を断つ覚悟だったと思う。」

という意見まで出ました。

中学1年生とは思えないほど深い読み取りでした。

◆ ロールプレイで見えたもの

授業の最後にはロールプレイを行いました。

私が先生役。

生徒が健役と大輔役です。

「どうして今まで言わなかったんだ?」

「本当に君たちだけなのか?」

「大輔と雄一も連れてきてくれるか?」

そんなやり取りをしました。

大輔役の生徒は実に見事でした。

少し反抗的で、

責任を認めたくない様子をうまく演じてくれました。

一方、健役の生徒は途中で言葉に詰まります。

固まってしまう場面もありました。

それでも最後には、

「自分は正しいことを言います。」

「その後のことは考えずに言います。」

と言っていました。

その姿は、まさに健そのものでした。

◆ 自分に負けない

ロールプレイの後、

私は聞きました。

「もし同じようなことが起きたらどうする?」

二人とも即答でした。

「自分に負けたくない。」

「自分に嘘をつきたくない。」

そして、

「もともと流されるつもりはない。」

とも言っていました。

頼もしい言葉でした。

◆ 最高学年として

イスラマバード日本人学校では、

中学1年生の二人が学校全体の最高学年です。

人数は少なくても、

学校の顔であり、

下級生たちの目標でもあります。

今回の授業を通して、

二人の中には

「正しいと思ったことを貫くこと」

「自分に嘘をつかないこと」

の大切さがしっかり残ったように感じました。

◆ 授業を終えて

道徳の授業は、

正解を教える授業ではありません。

自分の心と向き合う授業です。

今回、生徒たちは健を通して、

「友達との関係」と

「自分の良心」の間で揺れる人間の弱さを考えました。

そして最後には、

自分の弱さに負けない生き方について考えることができました。

教師として、これ以上うれしいことはありません。

今回もまた、

私にとっては間違いなく

「神回中の神回」

でした。

これから学校の最高学年として歩んでいく二人が、

自分に嘘をつかず、

自分の信じる道を進んでくれることを願っています。