「先生たちのリフレクション」を読んで

「先生たちのリフレクション〜主体的・対話的で深い学びに近づく、たった一つの習慣」 千々布敏弥 著 教育開発研究所 2021年

 柴田八重子先生(愛知淑徳大学)が、1月8日(土)先生主催の「道徳を愉しむ会」ZOOM研修で私が勤務校の実践発表をするのに際し、参考になるからと、送付してくださった。残念ながら私は既に購入していたので、重なってしまったが、同僚分として3冊学校に献本してくださった。

 本当に読みやすく、スーッと頭に入っていった。

 信念とは、「教師が自らの行動と思考様式に影響を与える価値の一定の体系」と定義できる。

 第1章では「教員の信念」について書かれている。「〜ねばならない」とするタイプの信念(イラショナル・ビリーフ)を持つことが教師の脅迫的な行動や感情に結びつき、そのような信念傾向の低い教師の方が子どもの満足度が高い。

 「思考力・判断力・表現力の獲得は知識の獲得がないと困難になる」などの信念を「児童・生徒が主体的・対話的で深い学びができる授業を提供しないといけない」という信念に変えること。

 新しい学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」の言葉の意義は、教師を主語として考えがちであった授業改善の議論を、子ども主語に転換するものだとまとめることができる。子どもの学びへの焦点化である。子供がどのように学んでいるかを目標像として示すことができれば、それに向けた授業改善はアクティブ・ラーニングでも従来通りの指導方法でもよい、という考えにシフトし、主体的・対話的で深い学びの言葉に決着した。

ラーニング・コンパスとは、OECD(経済協力開発機構)が2019年5月に公表した、「OECDラーニングコンパス2030」であり、このプロジェクトは、子どもの学習のあり方を示している。中心概念には、「学習者エージェンシー」がある。柴田先生の研修会にも何度も登場する言葉であるが、この本を読むまでは恥ずかしながら、意味がわからなかった。エージェンシーとは、「主体性」である。既存の社会的文脈の中で主体的に問題解決に取り組む姿勢をエージェンシーと称している。 

 「これまでの研究から学習者がエージェンシーを発揮し、自らが持つ可能性を発揮できる方向へ進むために、生徒は学びの中学的な基盤を持っていなければならない」

 「エージェンシーは社会的な文脈と密接に関係するので、個人だけでエージェンシーを発揮することはできない。仲間や社会メンバーとともに共同エージェンシーを発揮する必要がある。」エージェンシーを育むことは目的であると同時にプロセスであり、家族や仲間、教師との時間をかけた相互のやり取りを通じて獲得される。

 溝上氏はエージェンシーについて、「学習者(生徒学生)が複雑で不確かな世界を歩んでいく力のことであり、自らの教育や生活全体、社会参画を通じて、人々や物事、環境がよりよいものとなるように影響を与える力」と解説している。

 白井氏はエージェンシーについて、「『変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力』のことであり、生徒が自ら目標を設定して、単に自分たちの欲求を実現することではなく、その属する社会に対して責任を負うことが重要であり、その意味において日本語の主体的という言葉と異なる」と解説している。

 知識と自己に関するスキルを深い学び、社会的スキルを対話的学び、エージェンシーを主体的学びに対応させる

 小和田らは、教師エージェンシーとは、「教員が自分の教育活動と学校の取組を向上させるために、同僚と互いに関わり学び合うことを通じて、子どものため、自分のため、そして同僚のために何か貢献しているという、この違いを生み出す感覚と、違いを生み出すことに向けた動機、主体的な態度」と定義している。また、カルバートは、「教師が職能成長に向けて目的意識を持って構造的に努力する能力であり同僚の成長に寄与する」と定義している。

 学習者と授業者の視点の往還 「どのような具体物を提示したらよかったのか」と悩む教師に「このような具体物がある」とあたかも正答であるかのごとき知識を与えるのではなく「子どもが興味や関心を持つ具体物はどのようなものだろうか」と問うことで自らの内省を深めるように促す。検討すべきは具体物そのものでなく、子どもの興味・関心を引きつけること。

 エリオットは、「若手教師は設定された授業計画をその通りに実行しようとし、その成功の観点から批評を受けようとするのに、熟達教師は生徒との交流の中で得られた経験から反省的な自己批判を行い、自分の指導計画を修正している」と記述する。

 石井英真のよい授業をするための「5つのツボ」と教育委員会作成の授業の指針 ①目的・目標を明確化する ・資質・能力を焦点化する(付けたい力を明確化する)、・単元や各授業の目標を把握する、・ねらいを達成した子どもの姿を具体化する、 ②教材・学習課題をデザインする ・子どもが明らかにしたくなる学習課題を設定する、・教材の価値を把握する ③学習の流れと場の構造を組織化する ・既習事項を振り返る、・具体物を提示して引きつける、・子どもがみずからめあてをつかむようにする、・学習課題を解決する方向性について見通しを持たせる、・子どもが自分の考えを持つようにする、・思考を交流させる、・交流を通じて思考を広げる、・協働して問題解決する、・単元及び各時間の計画を立てる ④技とテクノロジーで巧みに働きかける ・子どもの思考を見守る、・子どもの思考に即して授業展開を考える、・子どもの考えを生かしてまとめる、・新たな学びに目を向けさせる、・板書や発問で教師が子どもの学びを引き出す ⑤評価を指導や学習に生かす ・目標の達成状況を評価する

 主体的学びと対話的学びは子どもの状態に注目すればよいが、深い学びについては教師自身が「単元の目標を実現しているか」「教材研究を重視しているか」「学ぶプロセスを重視しているか」などの教師の側に立った自問が重要

 マックス・バンネマンが提起したリフレクションの類型 「技術リフレクション」は、汎用的な技術や手法を授業に適用していくこと(先輩教師や管理職から言われて、授業の型や技術的な部分を指摘され考えていくこと)、「実践的リフレクション」とは、教師が授業場面に応じて行なっている即興的な意思決定のことである。児童生徒の問題行動や学級経営など固有の文脈に即した問題解決志向もこの領域のリフレクションである(授業中に起こるさまざまな問題や子どもの発したつぶやきなどを取り上げ、授業の目的を外さずに臨機応変に授業に柔軟性を与えて考えること)、「批判的リフレクション」とは、授業において意識すべき目的自体を常に見直す姿勢と考え方である。どのような子供を育てたいかを考え、それを日々の実践と結びつけている(単元や1年間の授業を振り返って、大局的にどのような子どもを育てたいかを念頭に置き、大きな目標から日々の小さな目標へと落とし込みながら、毎回の授業を組み立て、日々内省を行うことができること)。育てたい子ども像を主体的に考えている教師のことを、批判的リフレクションをおこなっている教師、子どもの考えを鋭敏に受け止め、指導意図を柔軟に見直しているのが批判的リフレクションの姿。

 子どもの「主体的・対話的で深い学び」を実現するには、教師がリフレクションに取り組むことである。授業研究を含めた、教師が授業について構想するあらゆる場面において、技術的リフレクションにとどまることを避け、実践的リフレクションや批判的リフレクションに取り組むことで、子どもの主体的・対話的で深い学びを実現する授業ができるようになる。

 素人理論を修正するコーチング 悩む教師に、コーチであれば、「なぜそのような状況になったと思いますか」「どうすれば解決できると思いますか」「そうするためには何が必要だと思いますか」などの質問を投げかける。コーチングは相手にリフレクションを促し、リフレックションを通じて問題解決することを促進する手法である。

 子どもの「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、教師に手法(マニュアル)を提示することでは不適切である。教師が自ら主体的にリフレクションするように促す戦略が必要。

 教師エージェンシーを発揮して授業に取り組むことが必要であることがわかった。「エージェンシー」という言葉の意味がわからず、柴田先生の研修でもよく使われる言葉であったにもかかわらず、恥ずかしながら、この本を読んで定義がやっとわかった次第である。「自分のために、生徒のために、そして職場の同僚のために、主体的に授業に取り組むこと」。私には、「同僚のために」という部分が欠落していることがわかった。若手教員のために頑張っている自分もいるが、背中で見せることはしていても、じっくり指導するという時間的心理的余裕がない。「道徳の授業に真剣に取り組めば学年(学校)は必ずよい方向へシフトしていく」という旗印の元、何人かの若年層の先生は集まってきてくれている。もっと鼓舞していく必要があると感じた。

 また、エージェンシーを発揮するには、リフレクションが大切であることもわかった。手取り足取り教えたりマニュアルを与えても、教師は変わらない。授業の手法やこれまでの経験からテクニックを教えるなどの「技術的リフレクション」では、変わらない。授業の中でよく起こる想定外のトラブルに対応したり、流れを根底から崩すようなポジテイブなつぶやきに対処するなど、それらを取り入れながらも、授業の目的は外すことなく、柔軟に授業を展開していくにはどうすればよいか、「実践的リフレクション」を促していきたい。さらに、年間の達成目標からバックワードで単元目標や日々の授業の小目標に落とし込みながら、何を目指すのか常に明確にし、子ども像についても日々確認しながら授業を展開していく視点を持ち続けたい。「批判的リフレクション」がとても大切であることがわかった。

 3つのリフレクションを若年層の先生方には促し、自分への取り込みも日々確認していこうと思う。

 

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